109489 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

おそらのうえで。

おそらのうえで。

*音のない世界*

 



 君の世界に

     音はない。



 *音のない世界*



 私の世界には

 いやってほどの音が満ち溢れていて

 聞こうとしなくたって

 いろんな音が入っては消えていく。





 でも

 君の世界には音がない。

 聞こうとしたって

 どんなに聞きたくても

 なにも聞こえない。





 去年の事故で

 君は両耳の聴力を失ったんだ。




 「ごめんね、待った?」




 そんな事実を聞かされた時

 泣いて泣いて泣き明かした私。



 でもね

 泣きたいのはきっと

 私なんかよりも君だから



 「電車おくれちゃって」



 泣くのはやめた。

 

 「ごめん」


 一生懸命

 手話の勉強したんだ。



 「遅いよ」



 君の声は

 まだちょっと音量調節出来てなくて

 大きかったり

 小さかったり。




 「ごめんってば」




 私の手話もぎこちないけどさ。





 “かわいそう”

 
 みんながそういった。

 

 かわいそう?

 なんで?



 言葉が伝わらないから?

 
 彼に声が届かないから?



 でもね

 声が届かない分

 君に触れる時間が増えたんだ。

 
 声が届かない分

 君と目を合わせる時間が増えたんだ。


 
 彼の耳が聞こえなくても

 彼といるだけで私

 幸せなんだって

 胸はって言えるよ?



 それでもみんなは

 かわいそうだって言う?







 「どこ行く?」



 君の耳が聞こえた時は

 よく映画一緒に見に行ったっけ。

 まぁ

 今だって字幕あれば

 見れるけど。


 歌が好きだった君は

 よくカラオケもいったよね。

 二人でカラオケなんて

 恥ずかしかったけどさ。



 「服、見に行こうか」


 
 まだぎこちない私の手話。

 君は笑いながら頷いた。




 お店へ向かうまでの道程。

 陽射しの熱い中

 そこらで路上ミュージシャンが

 歌を奏でる。



 でも君の耳には届かない。



 「あそこの二人上手いよね」


 本当は口に出したくても

 だすことが出来なくて

 飲み込む。



 どこかから聞こえてくるサイレンも

 君の耳には届かなくて

 
 


 「あれ?久し振りじゃん!!」



 そう私に声を掛けてきたのは

 高校時代のクラスメート。



 「なになに?もしかしてデート?v」



 そうやって

 ちらっと彼を見ながら

 私に耳打ち。


 
 「そんなとこかな」



 照れ臭そうに笑いながら

 彼の手を握る。



 「そっちこそ何してんの?」


  
 「私?ぢつは彼氏がそこで路上やっててさ。」


 そう言って

 彼女が指さしたのは

 さっきから私が上手いなって思ってた二人組で


 「うっそ!!すごいじゃん!
  さっきから上手いなぁ~って思ってたんだぁ」


 話は盛り上がる。



 

 そんなに長く

 話し込んでたつもりはなかったんだ。

 そんなつもりなかったんだけど




 「ごめん、俺・・・帰るわ」



 そう言って君は

 私の手を振り払ったんだ。。。




 「あ、ちょっ・・・」



 君の後ろ姿が

 淋しそうに見えた。




 ねぇ ごめんなさい。


 ごめん。


 ごめんなさい。



 あまりにも会話に夢中になっちゃって

 君のことを

 考え切れなくて


 ごめん。


 ごめんなさい。


 ごめんね。




「待ってっっごめん、お願いだから待ってっ」



 友達に別れを告げて

 君の背中を追いかける。



 
 でもね

 君の背中に向かって

 どれだけ叫んでも

 君には届かない。




 ごめんなさい。



 伝えたいのに伝わらなくて

 涙ばかりが溢れてくる。




 待って。

 謝りたいの。

 君と話をしたいのに

 君には気付いてもらえない。



 人込みをかきわけて

 やっと掴んだ君の腕。


 でも君は


 「ごめん、一人にして」


 私の手を払いのける。


 「・・・なんも聞こえないんだって」


 そんな辛そうな君をみて

 一人に出来るわけもなくって


 「だからなに?
  聞こえないからって・・・」


 必死に君の腕を掴まえる。


 「きっとこんなんじゃ
   君を幸せになんか出来ないよ」


 そう呟く君に


 「そんなことないっっ」


 反論したいけど


 「私は君と一緒にいられるだけで
   それだけでいいのっっ」


 どんなに叫んでも

 君に私の声は届かない。



 「聞こえないなんて・・・
   そんなの・・・関係ない・・・」


 どんなに叫んでも

 君はただ辛そうに

 首を横にふったんだ。


 「ほんとに・・・聞こえないんだって・・・」


 君の頬を伝う涙。


 「君の声に反応して
   振り向くことも出来ない」


 そんな時は

 私が君を掴まえるから


 「友達と楽しそうに笑う君と
   一緒に笑うことも出来ない」


 私がもっと勉強して

 君も一緒に笑えるように

 頑張るから


 「君がどんなに俺の名前呼んでも
   どんなに話し掛けてくれても
  俺の耳には何も入ってこないんだってっっ」




 ねぇ・・・

 言葉じゃなくても

 伝わるじゃん。



 ねぇ・・・

 見えるでしょ?



 言葉だけじゃなくても

 伝わるものがあるじゃん。



 言葉にしなきゃ

 私の気持ちはなんにも

 君には伝わらない・・・?



 「そんなことない・・」



 そんなことないでしょ?



 「伝わるでしょ?わかるでしょ?」



 そっと君を抱き締めた。




 ねぇ、わかるでしょ?

 この早い鼓動は

 君にも伝わるよね?



 どんどん上昇する体温を

 君は感じること出来るでしょ?


 
 頬を伝う涙

 君の瞳にもうつるでしょ?



 ねぇ


 音のない世界はつらいかもしんない。




 でもね

 
 触れることで

 通じ合えるものがあるでしょ?



 目をあわすことで

 顔を見合わせることで

 表情みて解ることもいっぱいあるじゃん。


 
 言葉は届かないけど



 「一緒にいたいの」



 一緒にいたいんだ。




 君と一緒に

 いろんなものを感じて

 いろんなものを見てたいの。



 ねぇ

 ひとりで背負込まないで。。。

  

 「一緒にいてください」



 君をぎゅっと

 強く強く

 抱き締めた。






* ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * ☆ * 

感想やメッセージ残してもらえると嬉しいな(^^)
bbs

読んで下さってありがとうございました☆
良ければ他の作品もどうぞ☆
Top








© Rakuten Group, Inc.